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2018.03.05

「食育」における歯科のかかわり

「食育」における歯科のかかわり】

 

 8020(80歳までに20本以上の歯を残す)運動は、ようやく多くの人に知られてきましたが、平成17年の調査では、8010が現状のようです。それでも当初の8006から比べると歯は残るようになってきました。

 食育と歯科との関わりはイメージが浮かばないかもしれませんが、「生涯を通じておいしく食べる」ためのポイントは歯科にも関係しています。

そして歯を含め全身の健康の基礎は小児期につくられています。

 

①胎児期

 母体の栄養摂取や健康状態が胎児の健全な発育に大きな影響を及ぼします。歯と口腔は母体内で形成されていますので、規則正しくバランスの取れた食生活を心がけましょう。

 また、母親の口腔の健康が生まれてくる子の健康に深く関わっていることが分かってきました。そのため、妊婦歯科検診は必ず受診するとともに、妊娠されたら自身の歯と口の健康についても気を付けることが大切です。

 

②乳児期および離乳期

 母乳は赤ちゃんの病気を防ぎ、赤ちゃんとお母さんの絆を強くします。また、離乳食や幼児期の「噛む」「のみ込み」などの口の機能発達の基礎にもなります。母乳をできるだけ長く飲ませるようにしましょう。

 1)離乳期は離乳食を通して少しずつ食べ物を「口に取り込む」「噛む」「のみ込む」など食べることを練習していくので、離乳食への移行を適切に進めることが大切です。

 2)指を吸ったりおもちゃをくわえたりするのは、食べ物の大きさなどを感じるための準備行動なので、無理に止めさせないようにしましょう。

 3)食べ物のかたさやひとくちの量が変化していく離乳食を、噛んで飲み込むのが上手になるには、歯の生え方が影響するので、歯の生え方を観察して、それに応じた離乳食にしましょう。

 4)離乳食を上手に噛んでのみ込むためには口がしっかり閉じていることが必要です。スプーンなどで介助して食べさせるときもこのことに配慮し、食べさせる姿勢にも注意しましょう。

 5)離乳が進んでいくと、徐々に手づかみで食べたがります。お母さんとしては手のかかる行動ですが、噛む機能の発達には大切なことですので、十分に手づかみ食べを経験させましょう。

 6)味を感じる機能が少しずつ発達する時期なので、ベビーフードのみに頼らず、お母さんが手作りする離乳食で、噛むことで味わえる味覚を感じ、さらにいろいろな食べ物を「見る」「触れる」「香りを嗅ぐ」ことで、さまざまな五感を刺激します。これは乳児期に限らず幼児期にも大切です。

 7)歯が生えてくると、母親からの虫歯菌の感染や、虫歯予防を考えた母乳の与え方や離乳食を工夫していくことも必要になってきます。かかりつけの歯科医に相談しましょう。

 

③幼児期

 1)離乳完了の目安は、いろいろな条件が関係しますが、噛む機能の発達からは、繊維質や弾力のある食べ物を噛むために、顎を横に動かしてすりつぶす運動がみられる時期で、歯の生え方には個人差がありますが乳歯の奥歯が生えて噛みあう1歳6ヶ月ごろが適当です。

 2)すべての乳歯が生えて噛みあう3歳頃は、いろいろな食べ物をしっかり噛んで、上手に飲み込むことができるようになります。ひとくち量をかじりとることや、よく噛むことを自然に引き出すような食べ物の大きさ、かたさ、歯ざわりが体験できるような食事を考えましょう。

 3)3歳頃から、お箸の正しい使い方、お椀類での食べ方などを教えましょう。

 4)幼児期の「早食い」「丸のみ」など、食事の仕方などは、生涯の食習慣に影響します。子どもの肥満など心と体の健康にも関係しますので、朝食など食事は噛みごたえのある食べ物にして、しっかり噛んでいるかどうかを観察し、必要であれば注意しましょう。

 5)食べ物を食べている時、お茶や汁物など液状のものを飲むことに注意します。食べ物が口の中にある間は、これらを飲むと流し込むことになりますので控えるようにしましょう。

 6)食事を急がないように、家族や友達などと楽しく食べ、周囲の大人がよく噛んで食べる姿、食べ方を見せましょう。

 7)間食は時間を決め、食事に影響しないようにします。夜食や寝る前の飲食は習慣になりやすく、肥満などの原因にもなります。また、砂糖を多く含む飲み物は虫歯をつくって進行させるので控えるようにし、砂糖が含まれるスポーツドリンクを水がわりに飲むのにも注意しましょう。

 8)歯みがきの習慣をつけ、定期的に歯科を受診して、お口を健康に保ちましょう。

 

④学齢期(小学生・中学生)

 1)乳歯が永久歯に交換して、永久歯列がつくられる時期です。将来の歯ならびや機能が完成していくこともあり、噛むことの大切さをさらに学習する時期でもあります。

 2)低学年頃に上下の第一大臼歯が生えて噛みあうと、食べ物を噛む能力が高まりますので、この時期に噛み応えのある物を噛むことを経験します。また、前歯が生えそろう時期は、前歯で食べ物を噛み切りひとくち量を知るためにも、やや大きめに食べ物を切り準備しましょう。

 3)前歯の乳歯が永久歯と生え替わる時期は食べ物をこぼしやすいので、お口を閉じて噛み、飲み込みます。しっかり噛むためにも食事時間を長めにとりましょう。

 4)食事マナーを身につける重要な時期です。家庭や学校給食で、大人が食器や食具の正しい使い方を通して、食べ方や姿勢などに目を配りましょう。

 5)友人や家族と外食やコンビニ食を食べる機会が多くなり、味覚などが均一化してきます。幅広い味覚を体験することは、おいしく食べるために大切です。この時期にさまざまな食べ物の料理を通して、よく噛んで唾液を出し、これらの味を味わっておくことは、その後、砂糖など甘味嗜好に偏らない食生活を送るために重要です。

 6)生活習慣が乱れがちになる時期です。食事が不規則や、小食・欠食になりがちで、間食や夜食で食べる割合が高くなり、軟食傾向になります。間食・夜食・飲み物などは控えめにして、主食をしっかり食べてよく噛んで食べましょう。

 

⑤青年期(高校生)

 親知らず以外の永久歯が生えそろい、歯並びなどの機能は完成されています。そのため、将来の生活習慣病の前兆を把握する必要があり、特に歯周病の予防が重要になってきます。自己管理ができている場合とそうでない場合との差がでてくるので、将来の健康に個人差がでてくる場合があります。

 

 

 

歯科では、虫歯になって痛くて、何日もご飯が食べられなかったり、若い頃から歯を大切にしなかったために、高齢になって入れ歯になり、しっかり噛めなかったり、食べ物の味が十分に感じられなくなったりして、老後の楽しみである「おいしく食べる」ことが不自由になって困っている人を毎日のように診療しています。

また、障害のあるお子さんの中には、食べたくても食べられないために、機能訓練を続けている子どもたちもいます。一方では、食べられるのに、好きなものしか食べないために、給食の残飯が大量に残るような状況もみられます。

現在の日本は、飽食の時代ではありますが、食べ物の大切さやありがたさをしっかり学んでいくのも子どもの時からであり、食べるために必要な健康な歯と口腔をつくっていくのも子どものときからです。

 「食育」をすすめていくためには小児期における歯と口腔が健全に機能することが基本となることを少しでも多くの人に理解してもらいたいです。

 

伊丹市 木下歯科 院長 木下勝巳

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